スマートライフのライター研修会で、日本の食生活研究家でありエッセイストである魚柄仁之助さんのお話を伺いました。私にとって魚柄さんの著書「ひと月9000円の快適食生活」は、25年前からの愛読書、台所仕事のバイブルです。
この本に引きつけられたのは、前書きに「手抜きは正しい!」と掲げられていたこと。手をかけ、時間をかけなければおいしいものは作れないと思っていた新米主婦だった私は、そのワードで本を購入しました。一般に、食費は1人、1ヶ月、3万円と言われている中、9000円とはどういうことだろうとページをめくると、簡単に、安くて、おいしく食べるための229項目ものノウハウが取り上げられていました。本の中から今も実践していることをいくつか紹介します。
まず、ほうれん草のゆで方。「ほうれん草は過熱しすぎるとビタミンが減ってしまうため、おいしく食べるには80度でゆでる。お湯を沸騰させほうれん草を入れたらふたをして火を止め、2~3分したら取り出して冷水でさらす」と書かれていました。試してみると、ほうれん草はシャキッとした歯ごたえがあり、アクもしっかり抜けていて甘みがある。しかもガス代の節約にもなります。
「ひと月9000円の快適食生活」
著:魚柄仁之助 出版:飛鳥新社 定価:694円+税
(現在はこちらの文庫版で発売中)
最も鉄分が豊富な根を切り落としてしまうのはもったいない。
食べやすいように根元に切り込みを入れています
沸騰したお湯にほうれん草を入れたら、火を止め、
ふたをして2~3分後に引き上げます
我が家のほうれん草のおひたしは、
葉も茎も根も混ぜてしまいます
もう一つが、枝豆のゆで方です。「枝豆を粗塩で塩もみして30分ほど放置、蒸気の上がった蒸し器で5分ほど蒸す」。実践すると、蒸した枝豆はうまみが凝縮されていて、ゆでたものとは別物と思うほどおいしいことに、衝撃を受けました。
日本の伝統食材である乾物類も、あまり使ったことがありませんでしたが、安くてヘルシー、おかずが一品足りないときにさっと使えることから、切り干し大根やひじき、豆などを進んで使うようになりました。
魚柄さんのお話の中で心に残ったのは「“エコ”をスローガンのように掲げてはいけない。“エコ”力とはものを工夫して大切に使うこと」という言葉。食事作りも大上段に構えることなく、こうすればおいしくなるかも、楽にできるかも、節約になるかもと、好奇心を持って丁寧に食材と向き合うことが、健康的で地球環境にダメージの少ない食生活につながっていたのです。
粗塩をもみ込んで30分放置。ざるに入れて5分ほど蒸し上げます。うまみが凝縮され、ほんとうにおいしい