みなさんは家庭から排出される使い終えた食用油を集める目黒区エコプラザが”東京の油田“になっていることをご存じですか?
東京に“油田”? その訳を知ろうと、油を回収する会社を訪ね代表の染谷ゆみさんにお話を伺いました。
㈱ユーズ代表取締役・TOKYO油田プロジェクトリーダー 染谷ゆみさん
使用済み天ぷら油が未来を変える⁉
1993年、染谷商店は世界で初めて廃食油(植物油)をディーゼル燃料化するという「VDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)」の開発に成功しました。1997年からは目黒区自由が丘を走る「サンクスネイチャーバス」などに、いわゆる”てんぷら油バス“の燃料を提供。同じく1997年、㈱ユーズを設立し、さまざまなプロジェクトを企画・運営し、飲食店などの事業者や家庭から出る廃油を通じた資源の循環型社会を目指して、「TOKYO油田2017」として拠点回収事業を拡げてきました。
その頃、「家庭の廃食油は限りある資源。捨てずに活用して欲しい」との思いで廃食油の回収を考えていた目黒区エコプラザ(当時はリサイクルプラザ)と協力関係を結び、回収がスタート。エコプラザは、「TOKYO油田」になったのです。
VDFの新たな展開
「TOKYO油田2017」プロジェクトの“2017”は、2017年までに東京中の油を集めるという目標でしたが、これは達成できませんでした。また、新たにエネルギーを販売する「TOKYO油電力」を設立し、小売電気業もおこないますが、こちらも大手の電力会社との調整が不可分で、残念ながらまだ採算がとれていないといいます。
しかし、「TOKYO油電力」は、発電事業の大きな野外イベントに電力を供給し、「アースデイ東京」や夏の「FUJI ROCK FESTIVAL」などで活用されています。
使用済み天ぷら油が航空燃料になる現実へ
CO₂を排出しない持続可能な航空燃料として世界中が注目するSAF(化石燃料以外で作る航空燃料の総称)の技術には、廃食油が使われています。
「TOKYO油田2017」プロジェクトの次の課題・展望として、㈱ユーグレナ社と共同でSAFの開発にも取り組んでいるということでした。
目黒から回収された天ぷら油で空を飛ぶ! 夢のようなことが現実になってきました。
しかし、国内の大手企業はSAFに参入し、油の回収を始めています。大手が油の供給源とするのは大きなビルや食品工場ばかりだそうです。染谷さんは「家庭や飲食店からの油を回収する余地はまだまだ残されているので、もっと回収拠点を増やしたい」と言います。
TOKYO油田が回収した廃食油は、下記のように再利用されています
SAFの燃料(輸出)
40%
飼 料
40%
VDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)
10%
タイヤ・インク・石鹸・肥料
その他
私が感じたこと
「油田は東京にあり! 人が住む限り、けして油田は枯れない!」最後に染谷さんが語った言葉です。コロナ禍でも少しも枯れなかったという油田。大地の恵みである植物油を人が消費する以上は、そこに限りない価値と可能性があるのです。お話を聞いて「油を一滴も無駄に廃棄してはいけない」と考えました。誰もが使い終わった油を大切にする習慣を無理なく作るためには、目黒区のあらゆる場所に“油田”が必要だと感じました。